1. Home
  2. /
  3. Author: ItoHideaki

バナー

ビットトレントに関する研究ノート掲載のお知らせ

伊藤弁護士によるビットトレントの裁判例を研究・整理した研究ノート「BitTorrentによる著作権侵害についての残課題 ─原告が立証責任を負うべき具体的事実についての検討─」が、甲南法務研究 第20巻(2023年10月31日)に掲載されました。

当事務所弁護士のビットトレントに関する論文が掲載のお知らせ

当事務所に所属する弁護士 伊藤 英明、茅根 豪の共著によるビットトレントに関する論文「P2P ネットワークにおける共同不法行為としての著作権侵害の成否と損害額の算定方法についての考察が、甲南法務研究 第19巻, p. 1-19(発行日 2023-03)」に掲載されております。

>

ビットトレントによる著作権侵害に関し、損害額を共同不法行為として算定した知財高裁判決を題材とし、どの妥当性を検討したものです。

ビットトレントで発信者情報開示請求を受けた方への情報

はじめに

ビットトレントにより他人の権利を侵害したことを理由に,自分に発信者情報開示請求がされたことは,通常,ご自身が契約しているプロバイダーからの意見照会書によって知る場合が多いかと思います。

突然のことで色々と不安を募らせている方のために,今後の方針について決めるための情報を簡潔に整理しましたので,ご自身にとって必要と思われる情報をご参照ください。

(スタイルシートの関係でリンク箇所の色が分かりにくいかもしれませんので,クリックできるところは,[下線]としてあります。

弁護士による解説

現状のステータスや,放置しておくとどうなるかといった話

[ BitTorrent(ビットトレント)系のP2Pソフトウェア(ファイル共有ソフトウェア)による著作権侵害について ]

どういった解決方法がよいのか,検討するときの参考情報

[ BitTorrent(ビットトレント)等のファイル共有ソフトウェアで発信者情報開示請求を受けてしまった場合のゴール設定の考え方 ]

直近の知財高裁の裁判例から,よくある疑問を解決したい

[ 知財高裁の裁判例(令和3年(ネ)第10074号)から考える、BitTorrentによる著作権侵害についての侵害者側の対応 ]

弁護士の紹介

[ 事務所概要 ]からどうぞ。

ビットトレント事案の弁護士費用

示談交渉(期間は1〜3ヶ月程度)
着手金(受任した後) 報酬金(示談が成立した後)
15万円(税込) 15万円(税込)
訴訟(期間は1年前後〜)
着手金(受任した後) 報酬金(示談が成立した後)
事案に応じ,最低33万円〜(税込) 事案に応じ,最低33万円〜(税込)

相手方に支払う費用の目安

示談が成立した場合

請求額は相手方次第ですが,最終的な示談金額の相場の傾向は,1件あたり数十万円程度が多いかと思います。

訴訟(判決)

著作権侵害の場合は,[ 著作権法114条 ]の推定規定をベースに,裁判所が認定した単価やアップロード本数等によって計算された金額。

詳しくは,上記の解説「[ 知財高裁の裁判例(令和3年(ネ)第10074号)から考える、BitTorrentによる著作権侵害についての侵害者側の対応 ]」及び[ 当該判決(裁判所のWEBへ) ]を参照ください。

フィッシングメールをきっかけに考える,自己の情報に関するオープンクローズ戦略

最近届いたメールと感じた違和感について

以下のメールをパッと見て,フィッシングメールだと気づけますか?

以下は,最近私の仕事用アドレス宛に届いたメールです。

JRの名前と「えきねっと」という,なんとなくありそうなサービス名に一瞬信じかけたんですが,ちゃんと文章を読むと明らかにおかしい点が複数あります。

違和感

①(本文には2年以上ログインがないと書いてあるが,)私が今の事務所に来てから2年経っていないので,2年前に事務所のアドレスで登録しようがない

②Fromのメールアドレスのドメイン部分が不自然「eki-net.com.jp」

③「ログインはこちら」のURLを見ると,.cnの中国ドメイン

フィッシングメールの被害を防ぐためには,メールを受け取った人がこうした「違和感」を感じることが重要になってきます(ちなみに,①〜③は私が違和感を感じた順です)。

フィッシングメールの見分け方について,実例からの私見

Fromに注意してリンクをクリックしなければ大丈夫?

よくフィッシングメールの注意点として,差出人(From)のアドレスが不自然ではないか,とか,安易にURLのリンクをクリックするな,とか言われます。

しかし,毎日大量のメールが来る仕事用のアドレスであれば,毎回常にFromのドメインをチェックしたり,URLをクリックせずにリンク先を調べたりすることは,実感として難しいと思います。差出人が偽装されている場合もあります。

また,2段階認証やパスワードのリセット,その他,メールに書いてあるリンクをクリックすることが前提になっている「仕組み」が現に動いているなかで,メールのリンクを一切クリックしない,という選択肢をとることも,通常は困難です。

そのほか,変な日本語や,メール本文の書式の雑さなどで見分ける方法も言われていますが,今回来たメールなどは,一見,ビジネスの連絡メールとして違和感なく受け入れられるのではないでしょうか?(ちなみに,ネットで検索したところ,電話番号は本物のJR東の電話番号のようです。)

ただ,個人を標的に入念に準備した攻撃でない限り,個々の事情に関係する「内容」についてまで完全に違和感をなくすことは困難です。

私が冒頭のフィッシングメールに違和感を感じたのも,客観的な外見ではなく,2年前にこのメールアドレスは取得していない,という非常に個別的な内容(①)からでした。内容に違和感を感じて,それを補強するための材料として,②のアドレスや,③のリンク先をチェックし,確信した,という流れです。

(なお,①〜③だけでお腹いっぱいなぐらいフィッシング確定なんですが,一応メールのヘッダを見たら,実際のメールの差出人はエストニアのVPSらしきサーバの「www」のようです。乗っ取られているのかもしれません。フォント名に簡体字が指定されていたので,本当の本当の差出人は中国からっぽいです。この辺は予想通りです。)

フリーメールのように,大量に宣伝メールが来るようなアドレスではれば,そもそも内容をしっかり読もうとも思わないかもしれません。しかし仕事のアドレスであれば,とりあえずざっと内容に目を通すと思います。その際に何か変だと感じたら,差出人やリンクのURLを必ずチェックする,という習慣付けをするだけで,フィッシング詐欺にひっかかるリスクは減らせるはずです(ゼロではないですが)。

SNSでプライベートを晒すことのリスク

個人を標的にした攻撃もありえる

さきほど,「個人を標的に入念に準備した攻撃でない限り,個々の事情に関係する「内容」についてまで完全に違和感をなくすことは困難です。」と述べましたが,資産家のリストが売買されうる時代です。

端的にいえば,お金持ち(あるいは,攻撃者にとって価値あるお金以外の「何か」にアクセスできる立場)であれば「個人を標的に」したフィッシングも,想定しておくべきかと思います。

SNSは攻撃者にとって宝の山

SNS等で自分のプライベートの情報を発信することは,例えばフィッシングメールを受信したときに,先に述べた「内容面」からの違和感を感じる機会をどんどん潰していくことになります。

攻撃者は,ターゲットのSNSを調べて,いかにも本人(と,正規の差出人)しか知らない情報を盛り込んでくることができます。すると,本来は違和感を感じるためのきっかけであった「内容」が,逆に,正規のメールだと騙される材料になってしまいます。

自己の情報に関するオープンクローズ戦略

ちなみに,私が冒頭に書いた違和感①から③ですが,本当はもう一つ違和感を感じた点があります。しかし,「これは書かないでおこう」と思ったために書いていません。

自分の情報を一切出さないこともなかなか難しいですが,情報を開示することのリスクも踏まえた上で,これはネットに書いてOK /ここはクローズにするという,自己の情報に関するオープンクローズ戦略を一人一人が意識して実践することが,ネット社会の便利さを享受しながら,リスクを遠ざけるのに必要な考え方のように思います。

ウェブサイトにフリー素材写真を掲載する際に気を付けたいこと

東京地裁令和4年7月13日判決 令和3年(ワ)第21405号 著作権侵害差止請求事件)

目次

1.ウェブサイトにフリー素材の写真を掲載する際,条件を守らないと訴えられることも!?

2.使用許諾条件に反してウェブサイトにフリー素材の写真を掲載したために,損害賠償請求が認められた裁判例

3.まとめ:ウェブサイトにフリー素材写真を掲載する際に,訴えられないようにするためには?

1. ウェブサイトにフリー素材の写真を掲載する際,条件を守らないと訴えられることも!?

多くの会社やお店が趣向を凝らしたウェブサイトを開設していますが,イメージアップをはかるために,きれいな写真は欠かせませんよね。でも,イメージ通りの写真をすべて自分達で撮影するのは大変です。

そのため,ウェブ制作会社にウェブサイトの作成を一括発注したり,インターネット上のフリー素材の写真を利用したりする方も多いのではないでしょうか。

今回は,以下の事例で,フリー素材写真にまつわる著作権の問題を考えてみます。


<事例>

花子さんは,「著作者 Hanako」の表示をすることを使用許諾の条件として,いろとりどりの和菓子と数羽の折り鶴を組み合わせた写真αを写真投稿サイトに掲載しました。なお,上記の使用許諾の条件は英語で書かれていました。

和菓子屋の「りきしん堂」からウェブサイトの制作を依頼されたウェブ制作会社A社の新人社員太郎さんは,フリー素材写真サイトで芸術的な和菓子の写真αをみつけ,りきしん堂のウェブサイトに掲載しました。ところが,英語が苦手な太郎さんは,花子さんがつけていた使用許諾の条件に気付かず,「著作者 Hanako」の表示をしませんでした。

2年後,花子さんが,りきしん堂に対してウェブサイト上の写真α掲載の差し止めと損害賠償を請求した場合,ウェブ制作会社A社に丸投げしたりきしん堂は,法的な責任を負うでしょうか?


答えや理由が気になる方は,次の裁判例をご覧ください。

結論を先に知りたい方は,裁判例は飛ばして,「3.ウェブサイトにフリー素材写真を掲載する際に,訴えられないようにするためには?」をご覧ください。

2.使用許諾条件に反してウェブサイトにフリー素材の写真を掲載したために,損害賠償請求が認められた裁判例

―東京地決令和4年7月13日 令和3年(ワ)第21405号 著作権侵害差止請求事件―

【判決の要旨】

原告X(一般私人)は,花が全体的に描かれた浴衣の上に帯を重ねて撮影した写真(以下「本件写真」という。)を撮影した写真の著作物の著作者・著作権者である。

原告Xは,インターネット上の「Flickr」という写真共有サイト(以下「写真共有サイトA」)に「本件写真を投稿し,公開するとともに,クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(作品を公開する著作者が条件付きで作品の再使用を許可するに当たって容易にその意思を表示できるようにクリエイティブ・コモンズが策定した条件付き使用許諾の類型。以下「CCライセンス」という。)を付与」している。原告XのCCライセンスは,本件写真に原告Xのペンネームを表示すること及び写真共有サイトA上の本件写真を掲載するページへのリンクを掲載することを条件としている。

被告Y社は,自社が運営する着物及び浴衣買取ウェブサイトへの送客のため,着物及び浴衣に関するウェブサイトを作成することとし,外注会社Z社に制作を依頼した。外注会社は,ビジュアルハントという著作物が集められたウェブサイトから本件写真の画像データをダウンロードし,Y社のサイトに掲載した。その際,外注会社は本件写真の下に英語で書かれた使用条件(ペンネームの表示及びリンクの掲載)に従わず,これらの表記をしないまま本件写真をY社のサイトに掲載した。

(1)争点1(被告Yによる著作権及び著作者人格権の侵害行為の有無)について

被告Y社は,Z社をして,「ビジュアルハント(Visual Hunt)」というウェブサイトから本件写真の画像データをダウンロードし,URLによってアクセスできるように,上記の画像データから作成した本件画像の画像データをサーバーに保存して,本件写真を有形的に再製するとともに,Y社のサイト内のページに,上記サーバーに保存された本件画像データへのリンクを貼った。

上記認定事実によれば,被告Y社は,Y社のサイトにおいて,「本件画像をサーバー内に保存することにより,本件写真を複製し,送信可能化したと評価することができる。そして,Y社のサイト内において,本件写真の著作者が原告であることは表示されていない。

したがって,被告Y社は,原告Xが付与した「使用許諾条件に違反して本件写真を複製及び送信可能化し,かつ,原告の実名又は変名を著作者として表示することなく本件写真を公衆に提供又は提示したといえ,原告の本件写真に係る複製権及び自動公衆送信権並びに氏名表示権を侵害したといえる。」

被告Yは本件画像の選択や配置を考えてサーバー内にこれを蔵置したのは外注会社であり,サーバー内にデータや素材等を蔵置する前にサイトの内容を確認していないから,侵害主体ではない旨主張するが,「ウェブサイトの制作の依頼を受けた業者が,依頼者に何らの確認をとることなく,完成したウェブサイトに係るデータや素材等をサーバー内に蔵置して納品することは通常考え難い」。「仮に被告の主張する経緯が認められるとしても,被告は,本件被告サイトが開設されて以降,同サイトを管理運営していたこと」,「同サイトは被告が運営する着物及び浴衣買取ウェブサイトへの送客のために作成されたものであって,本件写真を使用することによる最終的な利益帰属主体は被告であることからすると,被告自らが本件画像をアップロードしたと同視できる。」

(2)争点2(被告の故意又は過失の有無)について

ビジュアルハント上の本件写真が掲載されているページには,以下のような英語の記述があった。


DOWNLOAD FOR FREE

Copy and paste this code under photo or at the bottom of your post 

  (和訳:写真の下又は掲載下部にこのコードを複製し貼り付けよ)

Check license (和訳:ライセンスを確認せよ) 

License: Attribution-ShareAlike License (和訳:使用許諾:表示―継承使用許諾)


→これをクリックすると,CCライセンス証のページが表示され,CCライセンス証には,本件写真は著作者を表示・リンクを掲載する等の条件に従う限り自由に複製等の使用ができる旨記載されていた。

「そうすると,上記ページを見た者は,通常,本件写真が著作権及び著作者人格権により保護されており,一定の条件に従わない限り使用することができないことを認識し,又は認識することができるといえるから,本件被告サイトに著作者を表示せずに本件画像を掲載したことについて,被告には少なくとも過失があったと認められる。

被告は,上記表示が英文で記載されており非常に分かりにくいなどと主張するが,上記英文は,インターネット上で検索又は翻訳機能を使用することによりその意味を調査することは可能であるといえるから,被告の主張は理由がない。」

3.まとめ:ウェブサイトにフリー素材写真を掲載する際に,訴えられないようにするためには?

ウェブサイトにフリー素材写真を掲載する際に,著作者から訴えられないようにするために気を付けたいことは,次の2点です。

1.クリエイティブ・コモンズ・ライセンス等,著作物の再利用に関して付されている利用条件を必ず確認すること

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスについては,公式のウェブサイトをご覧ください。

使用許諾の条件には,著作者の氏名・ペンネームの表示や商用利用の禁止,リンク掲載等,いろいろな条件のパターンがあります。

上記裁判例を参考にすると,「FREEって書いてあったから自由に使えると思ってた」とか,「英語が読めなくて,条件があるなんて知らなかった」と言っても,許してもらえません。

英語が苦手でも,頑張ってウェブで翻訳するなどして条件を確認する必要があります。

2.著作物に付された利用条件を必ず守ること

 フリー素材は,フリー(自由)に使えるとは限りません。ライセンスが付されている場合,フリーに使えるのは,著作者が付した利用条件に従っている場合に限られます。

 たとえば氏名表示が条件とされている場合に氏名表示をしない場合には,著作物の利用自体が著作権侵害となり,差し止め請求や損害賠償請求などの法的責任を追及される可能性があります。

 自分を守るためにも,利用条件は必ず守りましょう。

 うっかり著作権法違反をして損害賠償請求されるのは,精神的にも金銭的にもしんどいものです。もし,著作権侵害だと警告を受けた際には,お早めに弁護士に相談してください。

Googleに対する仮処分の際の資格証明書の取扱いについて_20220811版

Google LLCの日本における代表者が登記されています

 たとえばGoogleマップのクチコミ削除や,投稿者への損害賠償請求をする際には,Google LLCを相手方にして裁判所に仮処分を求める必要があります。

 従来,Google LLCは日本に代表者の登記が無かったため,裁判の相手方にするためには,はるばる米国から書類を取得する必要がありました (PDF化されてからはそうでもないのかもしれませんが)

 しかし,ようやく日本でもGoogle LLCの代表者が登記されましたので,今後は,日本におけるGoogle LLCと,グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社の履歴事項全部証明書をそれぞれ添付した上で,当事者目録の債務者として,


アメリカ合衆国19808デラウェア州ウィルミントン、リトル・フォールズ・ドライブ251
債務者 Google LLC
日本における代表者(送達先)
東京都渋谷区渋谷三丁目21番3号渋谷ストリーム
グーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社
同代表者代表取締役 xx xx


とすれば良いようです。この場合,管轄が日本にある云々の上申は不要になります(東京地裁第9民事部に確認)。

ただし,近いうちに再度Google LLCの登記が変わる可能性があり,その際は出し直しが必要とのことでした。

また,東京以外の裁判所によっては別な運用をされているところもあり,まだ過渡期な印象です。

Google LLCの履歴事項全部証明書を取得する際,登記システムのオンライン検索でヒットしない場合は,法人番号(0110-03-015035)を使うと見つけやすいです。

まとめ

ようやく「ふつう」になりつつあるのかな,という感じです。一部の弁護士さんからのロビー活動(?)が功を奏したのかもしれません。ご尽力いただいた先生方に感謝いたします。

理系弁護士が匿名掲示板の発信者情報開示請求スレ(BitTorrent系)を見て思ったこと(1)

はじめに

BitTorrentはある程度ネットに詳しいユーザーが多いため、ネット上には様々な情報が書かれているようです。私は、匿名掲示板は仕事で見るだけでもう十分な気分なのですが、相談者の方と話をして気になったことがあったため、先日BitTorrent系の関連スレを少し見てみました。すると、過去の相談者の方が変なポイントに妙に拘っていた理由がこういう投稿にあったのかな等、色々思い当たることがありました。依頼者を理解するという意味では、我々も多少は読んでおく方が良いのかも、と思いました。

ただ、裁判で判決まで闘ったようなレアケース以外は通常は示談で終わりますし、示談書には、示談条件等を第三者に口外しないという条項を普通はつけますので、正しい情報を特に匿名掲示板的な場所で見つけるのは難しいと思います。

もちろん情報を集めることは自由ですが、どうせ情報を集めるなら、公開されている裁判例(例えば、先日解説っぽいものを書いた、知財高裁の令和4年4月20日判決(令和3(ネ)10074債務不存在確認(東京地方裁判所 令和2(ワ)1573)))を読む方が、コスパは良いんじゃないかなと思います。もし判決書を見て意味がわからないなら、ネットに書いてあることの真偽も判断出来ない可能性が高いので、弁護士に相談する方が良いかも知れません。

以下では、掲示板を見ていて気になった点についてメモ的に記載します。

クライアントソフトは消してはいけないのか

BitTorrent系のクライアントソフトを消してはいけない、という投稿がありました。投稿者がそう思われた理由はよくわかりませんが、私見ではなるべく早く消した方がいいと思います。

自分で消す分には刑法上の証拠隠滅的な話にはなりませんし、上に挙げた令和3(ネ)10074債務不存在確認事件で知財高裁が挙げた損害額の推定式のパラメータ的にも、早くソフトを消すことにメリットがあるためです。

なお弁護士的には、意見照会書より早くソフトを消すのであれば、証拠化しておきたいとは思います。裁判だけではなく、示談交渉でも有利な材料に使えるかも知れません。

著作権法114条の損害額の推定規定と示談の要否

著作権に限らず、知的財産権全般について損害額の立証が困難とされているため、権利者が被った損害額を別なパラメータで推定する複数の式が法定されています。裁判では、この式のパラメータ部分に、具体的にどんな数字が入るのかを証拠に基づいて争うことが損害論での争点になります。

ということを前提に、どうせ自分の損害額は数万円程度にしか推定されないから、弁護士費用+示談金で数十万円以上を支払うのはムダ、的な投稿を見ました。

金銭的な損得で計算されるのはおかしくないと思うのですが、その際に考えておくべき要素としては、

あたりをどう評価するかだと思います。

我々としては、上記の要素も考慮してご納得いただける場合には、相手方と示談交渉をすすめるようにしています。

なお、示談金額と法定された損害の推定額とは、理論上直接は関係ありません。示談はお互いが納得して手を打つという話ですし、示談は、そもそも損害額を推定するための事実に争いがある状態で進めることが多いです。

もちろん両者の金額が乖離している場合は、減額交渉をすることになる訳ですが、示談する相手方にもメリットがないと示談はできないので、ある程度の幅に入っているなら、金額以外の条件交渉を進める方が特な場合も多いかとは思います。

おわりに

関連スレが多く全く網羅的には確認できていないのですが、取り急ぎ、対応を悩んでおられる方の参考になりそうなことについて記載しました。

よくわからないことがありましたらオンライン無料相談も可能ですので、お問合せください。

当所での簡単なオンライン相談のやり方

はじめに

当所では、西日本を中心に全国の方からオンラインでの相談をお受けしており、多数のケースで受任から紛争解決に至ております。

しかし、依頼者の方に事件の見通し等について十分なご説明をするためには、顔が見えるビデオ会議的な仕組みが必要となります。

普段からZoomやTeamsなどでオンライン会議をされている方は問題がないのですが、そうでない方の場合、なかなか相談するにも敷居が高いとお感じになられている事も多いかと思います。

とはいえ、実はZoom等のIDを作成したり、特別なアプリなど準備したりすることなく、簡単にビデオ会議上でオンライン相談が可能な場合もあります。そこで、以下では、ZoomやTeamsを使っておられない方向けに、環境別にオンライン相談までの手順を整理します。

カメラ付きのパソコンがある場合

カメラ付きのパソコンがある場合は、簡単です。当所から、オンライン相談用のURLをメールでお送りしますので、お時間になったらそちらをクリックしていただき、ゲストとしてZoomの会議に参加してください。

ソフトウェアのインストールや、ZoomのIDの作成など、面倒な準備は不要です。

iPhoneがある場合

特別な準備は不要です。iPhoneの電話番号を教えていただければ、当所からいわゆるテレビ電話をかけさせていただきます。

iPhoneを使用中の場合、何もしなくてもApple純正のテレビ電話(FaceTime)が使えるはずですので、ソフトウェアのインストールは不要ですし、IDの作成等も不要です。

iPhone以外のスマートフォン、または、タブレットがある場合

当所から、オンライン相談用のURLをメールでお送りします。 予約時間の少し(15分ほど)前にそちらをクリックしていただき、「ゲスト」としてZoomの会議に参加してください。

ここで、もしお使いのスマホかタブレットにZoomアプリが無ければ、ダウンロードしてインストールするよう促されると思いますので、インストールしてください。 一方、Zoomが入っていれば、そのままお時間までお待ちください。

いずれにしても、ZoomのIDを作成する必要はありません。

まとめ

以上ご説明したように、スマホさえあればオンライン相談は難しくありません。

なお、これまでの経験上は、パソコン+カメラを使っていただく方が、資料や画面を共有したときに見やすかったり、場合によっては電子署名で契約書を作れるなど便利なことが多いです。可能であればパソコンを使っていただくことをお勧めいたします。

知財高裁の裁判例(令和3年(ネ)第10074号)から考える、BitTorrentによる著作権侵害についての侵害者側の対応

はじめに

BitTorrentにより有料動画を共有したとして、著作権侵害を理由に動画の制作会社から発信者情報開示請求を受けたBitTorrentユーザ(X1〜X11)が「原告」として、著作権者である制作会社に対して、「損害賠償債務が存在しない」ことの確認を求めていた裁判について、令和4年4月20日に判決の言い渡しがありました。

この事件、最初は東京地裁に令和2年(ワ)第1573号として係属し、簡単に言えば、原告(BitTorrentユーザ)のうち、X5とX11の二人については原告の勝ち、それ以外の原告については負け、という形で令和3年8月に判決の言い渡しがあったものです。

その後、X2以外の原告と、被告(動画制作会社)が控訴し、その判決が出たことになります。知財高裁の判断内容としては、技術的な観点からの表現の修正や、理由の補足がなされ、また著作権侵害の責任を負うべき期間が短縮されるなどしたものの、大筋としては東京地裁の判断が維持された(一審原告であるBitTorrentユーザのうち、X5とX11以外は負け)と言えるかと思います。

当事務所では、BitTorrent利用による著作権侵害として、プロバイダーから「意見照会書」が届いたがどうしたらよいか、というご相談を多くいただいていますが、その際の対応を考える上で、この裁判例は有意義に思いましたので、詳しめに検討していきたいと思います。

なお、とりあえず結論だけ知りたいと言う方は、ここをクリックして、この解説の最後にある「まとめ」にジャンプしてご覧ください。

裁判で争われた争点ごとの結論と、実際の相談事例との関連

この事件では、原告・被告とも、ふだんから我々が考え、また依頼者の方からもしばしば受ける質問のヒントになるような争点について争われています。

そこで、以下では、特に大きな3つの争点について、①争点、②裁判所の判断、③当所の相談でよく聞かれることへの影響、という観点で整理します。具体的な争点ごとの詳細は、別な機会での説明を予定しています。

〔争点1〕著作権侵害(行為)の有無

①争点

そもそも、BitTorrent自体はなんら違法性がない仕組みですし、また、民事訴訟は漠然と「なんらかの違法なファイル共有をした」ことを争う場所でもありません。著作権侵害を理由に損害賠償請求をする場合、著作権者は、自分が著作権を有する動画のうち、どの動画について相手方がどのように著作権を侵害したのかを具体的に証明する必要があります。

争点1では、この点について、「本件で問題とされている特定の動画ファイル」を本当に一審原告らが共有(ダウンロード及びアップロード)したのか、具体的な侵害行為の有無について争われました。

②裁判所の判断

この点について東京地裁は、X5とX11については「IPアドレスに係るハッシュは明らかではないので、…ダウンロードしたと認めることはできない。」と認定し、知財高裁もこの判断を維持しました。

意見照会書を受け取った方は、おそらく、プロバイダーからの資料にハッシュ値(データを関数に入れて計算して得られる計算結果の数値。同じデータであれば同じ数値になる。逆も真かはモノによる)が書いてあるかと思います。本件では、裁判所に出された証拠上、X5とX11については、問題とされた特定の動画ファイルと一致すると認定できなかった(ので勝てた)ということかと思います。

一方、X5とX11以外のユーザーについては、東京地裁及び知財高裁とも侵害行為を認定しています。

③当所の相談でよく聞かれることへの影響

実際のところ、BitTorrent系のソフトを使用する際に、細かい動画のタイトルや制作会社を覚えている人は多くはないため、具体的な「その」動画を共有したかは記憶にない、という方は多くおられます。

ただ、本件についての具体的な背景はわからないのですが、判決書を読むかぎり、X5とX11については特殊な事情があったようです。

一般的には、著作権者が、信頼性が確認されたとされるシステムによってBitTorrentのネットワークを利用しているIPアドレスとファイルのハッシュ値を具体的に特定し、これに基づいて発信者情報開示請求をし、その後にプロバイダーから著作権者に対してIPアドレスに対応する契約者の氏名及び住所の開示がされ、後の裁判はそれを前提に進む、というのがよくある流れかと思います。

とはいえ、そもそもIPアドレスは特定の個人に紐づけられているものではなく生成したソケットに紐づくものですし、今後も争点となる余地は多々あるように思います。もしご自身が受け取った意見照会書等に疑問がある場合は、ご相談ください。

〔争点2〕共同不法行為性について

①争点

我々は、通常は自分がしたことの範囲でしか責任を負いません。例えばAさん、Bさんの二人が別々にCさんの権利を侵害した場合、AさんとBさんは、それぞれ別々にCさんに対して損害賠償債務を負う(民法427条の分割債務となる)のが一般的な不法行為の考え方です。

しかし、ある損害の発生について複数の人の行為が直接又は間接に相関連共同している場合など、原則通りだと不公平が生じる場合は、その損害の賠償について、関係者全員に連帯して共同責任を生じさせる規定があります。民法719条には、こうした「共同不法行為」に対する共同責任について規定しています。

共同不法行為が争点となった理由は、BitTorrentに参加するノード(ピア)間で送受信されるデータの単位は、大元の動画データを細かく分割した一部である「ピース」であり、ここのピースだけを見ると「著作物(=思想感情を創作的に表現したもの)」とは言えないんじゃないか、という当然の疑問が生じるためと思われます。

著作権侵害は「著作物」を複製したり、ネット上のオープンな場所に置いたりした場合に問題になるわけですから、BitTorrentにおいてピア間で送受信する「ピース」が著作物でないならば、著作権者は、ある一つのピアが全てのピースを送受信したことを立証できなければ、当該ピアに対応するクライアントを起動していたユーザについて著作権侵害が成立しないことになりえます。

しかし、BitTorrentによるファイル共有について上記の共同不法行為が成立するならば、ある動画ファイルのトラッカーにぶら下がる全てのピアが相互に関連し共同してファイルを共有しているのだから、当該ピアに対応するクライアントを起動していたユーザ全員に対して共同責任を生じさせることができます。

そのため、本件でも共同不法行為の成否やその内容が争われています。

②裁判所の判断

知財高裁は、Torrentのネットワークにおける通信の実情等を認定しつつ、719条1項の共同不法行為の成立を認めました。ただ、共同不法行為で議論されている細かい法律論の中身については特に触れられていません(それが裁判所全般のデフォルトですが)。

③当所の相談でよく聞かれることへの影響

我々の相談者のうち、BitTorrentの仕組みについても調べておられる方で、「動画ファイルの一部しか送っていないのであれば著作権侵害が成立しないのではないか」と質問してこられたケースがありました。

私自身、判決書を読んだだけなので本件の裁判所の認定がどこまで妥当なのかはよくわかりませんが、本件を参照する限り、たとえ動画の一部のみをアップロードした場合にも、著作権侵害は成立すると言う判断がされる可能性が高いということになりそうです。

また、相談者の中には逆にBitTorrentの仕組みを全くわかっておられなくて、「自分が取得したファイルがその後に送信(可能化)していることを知らなかったのだが、それでも責任を負うのか」と質問される方もおられます(こちらの方が多い印象です)。

これについて裁判所は「ファイルをダウンロードした場合、同時に、同ファイルを送信可能化していることについて、認識・理解していたか又は容易に認識し得たのに理解しないでいたものと認められ、少なくとも、本件各ファイルを送信可能化したことについて過失があると認めるのが相当」 という判断を示しています。

〔争点3〕共同不法行為に基づく損害の範囲

①争点

BitTorrent上で動画ファイルを共有することについて、各ピアとなるクライアントを起動させているユーザ間に共同不法行為が成立する場合であっても、共同責任を負うべき期間は、当該ネットワークが発生してから(トラッカーが稼働してから)未来永劫の全ての期間(最大の期間)から、各ピアごとに、起動していた個別の合計時間(最小の期間)まで、大きな幅が考えられます。

しかし、いくら共同不法行為が成立するとしても、そもそもBitTorrentのネットワークに参加する前に他人が侵害した分まで責任を負わされるのは因果関係がなく不当ではないか、とも思われます。

本件でもこの点が争点として争われました(他にも、損害額を推定する際の要素について争われていますが、期間の認定が特に問題になるように思いますので、他の点はここでは省略します)。

②裁判所の判断

結論として、裁判所は、各ユーザがBitTorrentを利用していない時期については因果関係がないとして、BitTorrentの利用前と、利用終了後については責任を負わない旨を判断するとともに、ユーザごとに侵害行為の始期と終期を認定しました。

このうち始期については、言及されている具体的な証拠の内容がわからないのですが、おそらくBitTorrentの使用状況を調査するサービスにおいて、当該ユーザに対応するIPアドレスが特定の動画ファイルに対応づけられて検出された日時のうちのいずれかを使っているのだろうと思います。

一方の終期については、原審の東京地裁では、「各ユーザがプロバイダーから意見照会書を受け取って(本件訴訟の代理人となっている)弁護士に相談した日」と認定したのに対し、知財高裁では、「各ユーザがプロバイダーから意見照会書を受けた日」に訂正されています。

③当所の相談でよく聞かれることへの影響

相談者からは、プロバイダーから割り当てられるIPアドレスが変わることを根拠に反論できないかという質問をうけることがありますが、少なくともプロバイダーから開示された結果に基づいて事実認定がされている限りでは、IPアドレスの割り当てが動的であること自体は問題になりにくいように思います。

むしろ大事なのは、BitTorrentで違法な行為をしてしまったことを自覚したなら、なるべく早く同クライアントの「利用を終了したことの証拠」をつくることかと思います。 訴訟で争う場合はもちろん、示談交渉で和解する場合であっても、あまりに利用期間が短いことを示す証拠があれば、交渉の幅が出てくる可能性があるためです。

上記の証拠作りについても、状況に応じて色々な方法が考えられますので、お気軽にご相談ください。

まとめ

かなり長くなってしまいましたが、まとめると、

  • 侵害行為を否定することは、相手方が立証に失敗しない限り、こちらから積極的な「何か」を証明しないと難しいだろう
  • 「BitTorrentの仕組みを知らなかった」は、たぶん認められない
  • 著作物の一部の送受信であっても、共同不法行為として著作権侵害が成立しうる
  • 賠償責任を負う期間は、各々がBitTorrentの利用を開始した時期から利用を終了した時期まで
  • 少しでも責任を負う期間を短縮するためには、早期に利用を終了した証拠を作っておくことで有利になる可能性がある

となります。

我々がBitTorrentの著作権侵害について依頼を受ける際、基本的には、妥当な示談金で収まるのであれば相手方弁護士との交渉を通じて示談するのが、結果的に依頼者の負担軽減につながるケースが多いように感じています。

本件は一審原告が多数いるため一人当たりの具体的な弁護士費用がどうなったのかわかりませんが、通常は、違法な動画共有について裁判で争うのは、費用面に加えて、時間的・精神的な負担も大きいのではないかと思います。また、仮にある訴訟で勝ったとしても、BitTorrentで色々共有していた場合には、別な著作権侵害について別途訴訟を起こされるリスクもあります。

こうしたコストとのトレードオフとして、合理的な範囲での示談ができるようにお手伝いしておりますので、プロバイダーから意見照会書が届いたり、あるいは届く前であっても違法に著作権侵害をしてしまった、という方は、お気軽にご相談ください。不安を解消するための一番良い方法を、一緒に検討させていただきます。

事業をする際に知っておきたい商号と商標の基本クイズ

はじめに 〜「商号」と「商標」と「商標権」の違い〜

会社をつくって事業を始めようとする際は、会社の名称を「商号」として登記します(会社法6条1項「会社は、その名称を商号とする。」)。たとえば会社の名称として「株式会社 力新堂」を登記した場合、「力新堂」ではなく、「株式会社 力新堂」全体が商号となります。つまり、商号とは会社のフルネームにあたります。

一方、法律(商標法)上に「標章」という言葉があります。標章は、典型的には文字や図形等で構成されるマークです。たとえば「力新堂」は、文字だけからなる標章と言えます。

こうした標章が、商品やサービスと紐づいて使用されると、「商標」になります。

例えば「株式会社力新堂」が、パン屋を始めた場合、パンの包み紙に他のパン屋のパンと区別するためのマークとして「力新堂」と書いた場合、パンという加工食品に紐づけて「力新堂」という「商標」を使用していることになります。 逆に言えば、商品やサービスに紐づかない(限定されない)商標は、ありません。

また、「商標」かどうかは、いわゆる商標出願の手続きの有無とは関係ありません。

たとえば「力新堂のパンがおいしい」と評判になった場合、この評判にタダ乗りしようとして、別のパン屋がパンの包み紙に「力新堂パン」と真似してくることは、あり得る話です。 そんなとき、比較的簡易に他店のタダ乗りをやめさせる事前の備えとして国が用意している仕組みが、商標登録出願です。

具体的には、特許庁に対して、自分が使用している(または使用予定の)「商標」を「使用する商品やサービス」と紐づけて出願します。特許庁の審査を経て設定登録をうけることができれば、出願した商品やサービスについて当該商標を独占的に使用できる「商標権」が得られます。

商標権は商標の保護に特化している分、他のより一般的な法律を使う場合と比べて、自分の商標を法的に保護(差止請求や損害賠償請求)しやすいように制度が出来ていることが、わざわざ商標登録出願をする意義と考えられます。

なお、「商号」を商標登録出願することも可能です。上記の例では、「株式会社 力新堂」を「パン」について商標登録出願するケースです。これを、知財業界的に「商号商標」と呼んだりする場合もあるように思います。

以上を踏まえてクイズです。

クイズ: 商号と商標出願の関係

Q1

例えば、Aさんが神戸市に「株式会社 力新堂」を設立したあと、これと無関係のBさんが京都市で「株式会社 力新堂」を適法に設立した場合を考えます。 なお、いずれの「株式会社 力新堂」も、残念ながら周知・著名ではない会社とします。

ある日、京都市のBさんがGoogleでエゴサーチしていたところ、神戸市にも同じ社名の会社があることを知り、もし相手(Aさん側)が先に商号を商標登録したら、自社の社名の使用が差し止められるかもしれないと考えたとします。

この場合、Bさんは「株式会社 力新堂」を商標登録出願すべきでしょうか?

答え: 「株式会社 力新堂」は、両社にとって「他人の名称」に該当するため、Aさんであっても、Bさんであっても、その商標登録出願には拒絶理由が生じている(商標法4条1項8号)。よって、出願すべきではない。

なお、Aさんであれば、Bさんが会社を設立する前に出願した場合であれば、「株式会社 力新堂」という商標を登録できる可能性があります。

Q2

商号についてあれこれ書いておいて言うのもなんですが、我々は普段「商号」をあまり使っていないように思います。例えば「ソニー株式会社のテレビを買った」「トヨタ自動車株式会社の車を試乗した」等という人はあまりおらず、普段は「ソニーのテレビ」「トヨタの車」などと略して言っています(ちなみに仕事では「さん」をつける場合もありますが、これも略称にさん付けしているのではないでしょうか)。

では、Bさんも商号から「株式会社」を略した「力新堂」を念のため商標登録したいと考えた場合は、これもダメなのでしょうか?

答え: 「力新堂」は、商号「株式会社 力新堂」の「略称」であるところ、「略称」は著名でなければ先の商標法4条1項8号の拒絶理由にはあたらず、出願の早い者勝ちで登録される可能性がある。

したがって、例えばBさんが、Aさんより早く商品「パン」について商標「力新堂」を出願した場合、Bさん(だけ)が当該商標について登録を受けうることになります。

この場合、Aさんはどうなるのか?Bさんより早く会社を設立したのに、自社のパンに自社の名前すら書けなくなるのか?という点が気になりますが、この点は商標法26条1項1号が「自己の…名称…を普通に用いられる方法で表示する商標」には、「商標権の効力は…及ばない」と規定して、(一応)手当てしています。

具体的には、Bさんがパンについて商標「力新堂」を登録した場合であっても、Aさんは、自社のパンの袋に、自社の名前「株式会社 力新堂」を書くことはできます。

しかし、これはあくまで「自己の名称」を「普通に用いられる方法で」すら商品に書けないのは色々と不都合だから、という話であって、実際は袋の裏に小さなありふれた文字で、略さずに「株式会社 力新堂」と書ける、という程度で許されるだけになるかと思います (この範囲を超えて、Aさんの会社が、自社製パンの目立つところに派手な文字で「力新堂」と書くことは、Bさんの商標権侵害となるリスクがあります)。

まとめ

長くなりましたのでこの辺でまとめます。

  • 「商号」は登記された会社のフルネームである
  • 文字や記号などマーク単独であれば「標章」どまり
  • 標章が商品やサービスと紐づけて使用されると、これを見た買い手(需要者)が他の商品やサービスと識別するためのマーク=「商標」になる
  • 商標を特許庁に出願して設定登録されると「商標権」が発生する
  • 「商号」であっても、商品やサービスと紐づけて使用されると「商標」となるため、商標登録が可能
  • 特に商号の一部を商品やサービスに使う予定がある場合は、早めに商標登録出願をしておくことがトラブル防止に役立つことも

力新堂法律事務所では商標登録出願の相談を受け付けています。初回相談は無料ですのでお気軽にご連絡ください。

法律相談の
ご予約はこちら
TOP